チンだって冷凍だって調理技術

お魚をメインに扱ってての最大の悩みは「仕入れが安定しない」ということ。
時化や月夜は漁ができなかったり、これからは休漁期間に入ったりもする。
そんな時は仕入れたくても仕入れられない。

それ以外にも、うちの場合は仕入れ量がそんなに多くないのと、使える予算が限られてるので、選べる魚種もある程度限られてくる。
(よくない条件の中、より良いお魚を買ってくれてる仕入部隊の方々には感謝しかない)

「仕入れがないので商品がありません」では商売にならないので、そこは対策が必要。
なので、基本的には仕入れたお魚は一部はすぐに提供(おかずセットだけでなく、単品であら炊きや揚げ物、可能な時はお刺身も)して、それ以外のものは下処理や半調理などの加工をして冷凍するようにしている。
なるべく多くの魚種&調理法のストックをしておくとなた切れになる心配が減る。
おかずセット用の仕込み(サイズや引数を揃える)の半端分を単品に回すこともできるので、より無駄がない。

あと、仕入れたお魚を提供する際に、魚種によっての鮮度落ちの早さの違いや、食べ時のタイミング(全てのお魚が「新鮮=美味しい」わけではなくて、少し水分を抜いて〆た方がいいものや、時間をおいて脂が回った方がいいものもある)などによって、仕入れ→提供・提供商品にタイムラグが生じる。

今週の場合だと、月曜日におかずでイサキのアクアパッツァで単品の刺身が鯵、火曜日におかずで鯵のカレー天ぷらで単品の刺身がイサキの炙りだった。
イサキの方が鮮度落ちしないため、鯵の方を先に刺身で提供したのだ。
(鯵の刺身も好みがあって、私は一晩寝かせて脂が回ったやわらかいタイプの方が好きだけど、鮮度抜群で固めの身の方が好きな人も多い)

以前、鯛のあら炊きを単品で提供した際に、後日お客様から言われたのが、「あの鯛のアラはどこで拾ってきたんかね?」と言われたことがある。
どういう意味かと聞いてみたところ、「あら炊きが出たのに、それから何日経っても鯛(の身の料理)が出てこない。おかしい」と。
この時は仕入れた真鯛を捌いて、少しだけ刺身で単品で提供、おかず用の切り身の状態にして必要な個数そのまま冷凍、半端分はフライの衣づけをして冷凍、アラを炊いて単品で提供していた。
ちなみにこの日のおかずは同時に仕入れた別のお魚だった。

お客様に毎日おいしくお魚を食べていただけるように、ネタ切れにならないように、仕入れたお魚の多くは一旦冷凍している。
冷凍とはいえ、水揚げされてすぐのものをすぐに処理しての冷凍なので、スーパーに「加熱用」で並んでいる生魚と比べて品質は悪くない。

ただ、お客様の中にはこうした提供方法を嫌う人もいるだろうことは理解できる。
なぜか日本人はお魚に関しては「鮮度命!」「天然命!」だから。
先に書いたように寝かせた方が美味しい場合もあったり、天然よりも養殖の方が脂ノリがよくて美味しかったりするのだが(そもそも養殖の方が安心安全)。

それと併せて、「よくわからない・よく知らないから否定する」人も多くいる。

少し昔の話になるが、年配の男性がとある料理屋さんについての話をしてた。
「あそこの店は冷凍したものをチンして出してるから行かない」と。
ちなみにそのお店には私も行ったことがあるのけれど、毎日創作の料理を手仕込みしたものがカウンターのショーケースに並んでおり、お品書きも毎日手書きだった。
その様は、かなりの手間暇時間をかけて仕込んでいるであろう様子が見てとれる。

そのお店は厨房はなく、カウンター内で(お客様に見える場所で)調理している(3NASびと同じな)ので、冷凍庫から食材を取り出したり、電子レンジで温める様子もお客様に見える。
とはいえ、冷凍庫から取り出すものも市販の冷凍食品・冷凍食材ではないし、チンしてるのも煮込みを温め直したり、蒸し器の代わりにしているだけだ。

にもかかわらず「あそこの店は冷凍したものをチンして出してるから行かない」と言ってしまう人がいるのは、「冷凍食品はよくない」「チンは手抜き」という固定概念があるからだろう。

私は冷凍もチンも調理技術のひとつだととらえているので、冷凍の食材を使うこともある(旬の時に大量に収穫したものなので安価で栄養価も高く味も良いものも多い)し、お魚も冷凍保存している。
ただ、前の人のように、商品提供のタイムラグを疑問に思う人もいるし、もしかしたらそれを快く思わない人もいるかもしれない。

私にできることは、(冷凍であっても)お魚を美味しく調理して、旬の食材を使って、栄養バランスの良い、豊富な食材と調理法で「からだが喜ぶゴハン」をより多くの人に食べてもらえるように努力することだけだ。