とんでもないことが起こった。
父が死んでいた。
父の妹と名乗る女性から「お父さんと全然連絡が取れない」という電話がかかってきた。
(どうして私の携帯番号を知っているのかわからないが…)
ちょうど1カ月前に電話で話したが、それ以降は何の連絡も来ないし、こちらからもしていなかった。
とはいえ、物心ついた時から父との距離はそれが通常だったので、気にもしていなかった。
とりあえず電話をかけてみたが、電源が入っていないというアナウンス。
相方さんと車で15分足らずの場所にある実家を訪ねた。
母の四十九日以来の訪問。
庭の草木は伸び放題でジャングルのようになっていた。
その奥に父の暮らしていた家がある。
預かっていた鍵で開けようとしたが、内鍵がかかっていたので開かない。
しかし、内鍵がかかっているということは中にいるということ。
チャイムを鳴らしても耳の遠い父には聞こえない。
嫌な予感がよぎる。
仕方なく鍵のかかっていない箇所を探し、そこから入ることに。
相方さんが前に二人で2階にある父の寝室に向かう。
部屋の扉が開いている。
「いないよ」と相方さん。
いや、ある。
部屋の左奥に人の足の形をしたものが目に入った。
「いや、いるよ。ダメなやつだ…」とすぐさま私は階段を降りた。
改めて部屋の中を覗き込んだ相方さんも「ダメなやつだね…」と踵を返した。
すぐさま110番。
手が震えた。
しばらく待つと、パトカーと救急車が来た。
警官と救急隊員の人が来たので、事情を説明した。
警官と救急隊員の人が現場に行ったが、救急隊員の人は早々に撤退。そりゃそうだろう。もはやどうにかできるレベルの状態でないのは私でもわかる。一瞬目に入った足の形をしたものは、人の色ではなかった。
警官が刑事を呼んだ。
またしばらく待つと、刑事が来た。
いろいろ事情を聴かれたので、ただ答えた。
刑事と警官が父の部屋や家の周りを調べたり、近所の人に聞き込みをしたりしていた。
3時間近くが経過した。
とりあえず事件性はなさそうだが、遺体を警察署に搬送するという。
通常は家族が顔を見て身元確認するのだが、この度は死後ひと月くらい経っていて、遺体の腐敗が激しく頭部がほとんどないとのことで、歯の治療痕やDNA鑑定で身元特定をするとのこと。
特殊な感じの袋が担架に乗せられ、警察車両に運ばれていく。
袋は人が入っているとは思えないほどペシャンコだ。
父の最後は孤独死だろうと予想はしていたが、こんなに早く、しかもこんなにひどい状態になるとは思ってもみなかった。
悲しいとか悔しいとか、そういった感情のようなものは全く感じない。
ただ起こったことに対するショック。
そしてこれからどうなっていくのかという不安。
とりあえず、ひどい状態になっているであろう父の部屋を何とかしなくてはならない。とはいえ、部屋に近づく気にもなれない。どうしたものか。
悩みながらも、子ども達が待っているので、実家を後にした。